分り易い「2014年度 年金財政検証」

2016年03月25日

年金財政は、5年に一度検証することになっていますが、2014年度は、将来の人口や経済変数に異なる前提を設定し、今後100年間の公的年金財政の将来試算8ケースが公表されました。5年前の財政検証では、100年後にも政府が約束した年金額が給付される経済前提が非常に良好なケース(今回のケースA~Eに相当)のみが公表されましたが、今回は現実的な経済前提(今回のケースF~Hに相当)での試算が参考ケースとして示され、一歩前進と言えます。

経済前提が最も良好なケースAの100年後の厚生年金の年間保険料の総収入は545兆円、経済前提が最も控えめなケースHは35兆円(2014年保険料総収入は30兆円)と大幅に違う前提での試算が示されました。年金財政検証は100年に亘る年金の財源と給付をシュミレーションしたもので、国民には取っ付き難いものですが、専門家が年金の将来像により近いとされるケースE~Gにつき、以下の資料では分り易いようにグラフ化しました。

平成26年度 年金財政検証 経済前提F~G

年金経済前提E-G

 【グラフの拡大表示】

経済前提

*棒グラフの説明

棒グラフは、毎年の年金給付額を示しますが、その中の“紺色”がその年の年金保険料収入、”水色”が国庫負担(税収等からの投入額)、”黄色”が100兆円を超える過去からの年金積立金の運用収入、グラフの上部に“赤色“で示した部分はその年の年金収入では年金給付が賄えず過去の積立金を取り崩しているケース、一方、グラフの下部に”赤色”で示されているのはその年の保険料収入等が黒字で積立金が積み増されているケースです。 
このグラフを見て分るのは、ここ10年ほどの間、毎年保険料収入等では年金給付が賄えず、毎年積立金を取り崩している実態です。そして、2010年代後半から”黄色“部分が多くなり、積立金の運用が増えて来ると予想していることです。(2014年度の検証では、数年前の予測を基に試算しており2013~14年の年金収支が赤字となっていますが、実際には、アベノミクスの恩恵を受けて株価が上がり実際には黒字転換しています。しかし、株価が2013~15年に倍以上に上がったのは例外的なケースであり、これからも倍々で上がるとは誰も考えないでしょう)

ケースA~Eが100年後まで政府が約束した所得代替率(現役男子手取収入に対する厚生年金収入の比率)が50%を維持するケースである一方、ケースF・Gの所得代替率はそれぞれ45.7%、42%であり、50%を維持できないケースで年金給付を行うとなると法令改正が必要となります。ケースEは、法令改正をしなくて済む最も経済前提を控えめに想定したものですが、このケースは現状でも70%の水準にある30~59歳の女性の労働参加率が83.5%まで上昇するという試算であり、A~Dに比べればいくらかは現実的な試算と言えますがまだ楽観的過ぎると言わざるを得ません。

所得代替率推移

雇用者将来見通し

楽観的な前提で給付を行うと何が問題になるか?それは、本来想定した保険料徴収や運用益が得られないにも拘わらず、多額の給付を約束することになり、今後益々少子高齢化が進み、年金給付の財源が厳しくなることが分っているにも拘わらず、将来に比べれば相対的に厳しくない現状において年金積立金が早めに取崩されることです。実際、年金制度の改正が行われた2004年以降、計画より20兆円も多くの年金積立金の取崩しがあり、この水準が継続すると積立金が20年後には枯渇する計算です。アベノミクスで株価が上昇し、ここ2年程は改善していますが、これは、今まで過小評価されていた株式総額が2倍近くの評価となったためで、毎年評価額が引上げられるものではありません。むしろ、注目しなければならないのは、運用する株式・債権等の運用益が平均してどの程度見込まれるかですが、ケースA~Dの試算では過大な運用利回りを想定しているように見受けらます。

世代毎年金損得

また、見落とされがちな視点ですが、もう一つ提起しなければならないは、試算の多くが年金積立金を全て取り崩す前提で計算されており、積立金がなくなった翌年から前年度に比べ大幅に年金給付が落ち込むことです。経済前提ケースGで所得代替率50%を優先したケースでは、2050年までは50%を維持できますが、翌年からは所得代替率が30%台に落ちる試算となります。また、100年後の給付額を試算している多くのケースが、100年後までに積立金を食いつぶす試算となっており、その翌年からは大幅な年金給付の減額を覚悟しなければならない試算であることを認識して、このような設計でいいのかを判断してもらう必要があります。

100年後には、現在の大多数の人が亡くなっていることが予想されますが、我々の祖父や祖母の時代から積上げてきた年金積立金を次の世代に引き継ぐことなく、我々の世代だけが積立金の恩恵に預かるような設計でいいのかということです。

 2016年3月


TOPへ戻る